アイスリボン291 さくらえみvs真琴に寄せて

事の発端はアイスリボン290座談会。
真琴は基礎体力の欠如を理由にSMASH練習への参加を止められている事を告げた。
ファンの前で行った、さくらから出された「腕立て100回」へのチャレンジも敢えなく失敗。
横で軽々とこなすちいとの対比が、より力足らずな部分を浮き彫りにさせていた。

真琴が世界を目指す上で最も大きな課題がフィジカル面であるのは、今に始まった事ではない。
昨年11月、TAJIRI戦を表明した直後にNEOで海外女子選手が4名参戦する6人タッグマッチが行われ、真琴も試合メンバーに入った。
技量では負けない物を感じさせてもパワー差でペースを持って行かれてしまうというのが、当時の感想。

これが当てはまるのは海外選手と対戦する時ばかりではない。
松本浩代、紫雷姉妹といった海外にも活躍の場を広げる同年代の選手、そして後輩の志田と当たる時でも、パワー不足はいつも大きな課題だった。
デビュー当時からの真琴の歩みを考えれば、今の姿も想像出来ないほどの進化なのは間違いない。
ただ、昔からのファンはトータルで捉えがちだけれど、"無気力ファイター"時代の真琴を文字や映像でしか知らない層も増えている。
それが基礎体力の欠如に対して、率直な声を上げる多数の声に繋がったのだろう。

さて、真琴とさくらえみのシングルは今回が7度目である。
前回対戦したのは2009年10月31日、三田英津子さん引退試合の前日にアイスリボン道場で行われたICEx60選手権
同年10月12日に真琴からベルトを剥ぎ取った王者・さくらに挑んだ試合。

あれから1年半、アイスリボン内の風景も変わった。
そして、さくらにベルトを奪われて以降、真琴はアイスリボンのベルトを一度も巻いた事がない。
インターナショナルリボンタッグ、TRC、IW19。
挑戦者として幾度となく駆り出されても、どうしてもベルトを手にする事が出来ない。
タイトルマッチに敗れても挑戦機会が巡ってくる事を特別扱いと見る向きもあるかもしれない。
しかし語弊を恐れずに言えば、この1年半の間、真琴は"負け役"として団体を下支えして来たのだ。

先日のおはようニュースにこんな言葉を寄せている。
『例えば自分が負けて悲しいと思ってくださるひとがいれば、
相手が自分に負けて悲しむひとだっているのです
それはいつだって誰だっておなじなのですよ』
生き馬の目を抜こうとする競争社会の中で、相手の背景を考える優しさと団体への愛情で、嫌な役も引き受けながら進んでいたのだと思う。

アイスリボンの中で自分が輝ける場をなかなか築けなかった真琴。
その状況に差し込んだ光明がTAJIRI選手との出会い、そしてSMASH参戦。
世界に通用する技術を身に着け、夢に近づいている手応え。
スター性を買われ、地道に練習へと参加して評価を上げる事で初の後楽園ホール大会メインもアイスリボンではなく、SMASHで掴んだ

アイスリボンでは表現しきれない真琴を見せられる場所。
まさに一員として参加し、第2のホームのように愛着を持つリングだったのではないかと思う。。
SMASH.17後楽園ホール大会のメインでベルトを奪い、リング上で喜びを爆発させていた姿は、久しくアイスリボンで見せていないものだった。

一連のさくらの発言で、一番違和感を感じたのは何故練習への参加まで止めるのか?という点だった。
基礎体力向上を促す必要はあるとしよう。
けれど、さくらに真琴が輝こうとする場を奪い取る権利があるのか...。

さくらえみと真琴のプロレス観は少しずつズレてきているのではないかと感じる事がある。
本当はアスレティックな女子プロレスをやりたいさくらと、スポーツエンターテイメントを志す真琴。
目指す方向と手段がどこかで違ってくるのは当然だろう。
率直な話、さくらは自らが統制するアイスリボンの中で真琴を活かし切れていない。
そんな中で真琴がSMASHという新しい場で輝き始めている事に対して、悔しさと抑えられない。
そこで強引に自分の世界へ連れ戻した。
さくら自身も気付いていない真琴とSMASHへの嫉妬心が、この公開腕立て事件の裏に潜んでいるように思えてならない。

真琴の歩みを振り返ると、彼女のレスラーとしてのポテンシャルを最も引き出してくれるトリガーは「恨み」。
もともと感情が深い真琴は、時として見る側の想像を絶するような激しさを見せる事がある。
愛憎入り交じる師弟関係の歴史の中でも、いま真琴とさくらの感情的対立は最高潮を迎えている。
真琴がこの勝負に勝つために絶対必要なのは、溜め込んできた感情の爆発だろう。
同時に、その感情の発露が真琴の持つ一番の魅力であり、言葉を越えた部分で人の心を打つ事の出来る力だと思う

この1年半前で技術も体力も大きく向上した。
それでもまだ、さくらえみが依然として高い壁なのは間違いない。
しかし、リミッターを外した真琴がさくらえみの知らない引き出しを開ける事が出来れば、勝利の芽は見える。
真琴は大一番では内に秘める闘志と身体がチグハグになってしまう事も多かった。
だからこそ、この正念場を越える事で彼女は新たな一歩を踏み出せるはずだ。

彼女が目指している夢、その先の大きさを考えれば、真琴物語の完成度は今でも10%にも満たないかもしれない。
けれど、まだまだ未完のレスラーだからこそ、これから先にも可能性がゴロゴロ転がっていると思うのだ。

彼女のファンになってから、リング上で号泣して肩を落とす姿を前に、何度も辛い思いもしてきた。
その分、喜びを爆発させた時に見せる笑顔が与えてくれるカタルシスも、他のどんな体験からも得られないものだった。
もし真琴というレスラーに出会わなければ、こんなに悲喜こもごも様々な感情を心の奥深くから体験する事も無かったと思う。
一介のインディープロレスファンだった自分の人生は真琴に出会う事で、大きく変わった。
この先、もっと多くの人間に影響を与えられる器の大きいレスラーになって欲しい。
世界へ踏み出すため、さくらえみを踏み越えていけ、真琴!

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